In my 高野豆腐 head

頭スカスカ人間による雑文置き場

親父の背中

 親父は今年で72歳になる。

 三島由紀夫が、「父が子供に教育を施すというのは、農村や漁村の肉体労働を生業とする場合であって、都市インテリの場合は教えることなどほとんどない。せいぜい礼儀作法くらいだ」というような事を書いていたが、確かにそうかもしれない。都市インテリとは言えないような家だったが、サラリーマンの父が何を仕事にしているのかほとんど把握していなかった。

 多少の小言やアドバイスはあったと思うけど、コンコンと父から何かを教わったという記憶がない。テーブルマナーと、酒の飲み方くらいだ。父としてはもっといろいろなことを教えたかったのかもしれないが、こっちが乗り気でなかったか、向こうが忙しかったかで正式に何かを教わったという記憶はあまりない。そういえば後日成人してから、「俺は放任主義だったから」と父が言ったのを思い出した。

 とはいえ、父の影響を年々感じつつある。ビールから日本酒へ、日本酒から焼酎へと酒の好みが変わったこと。酒のアテは豆腐さえあればいいというようなこと。走ったりウォーキングしたりするのが日課になったこと。話し方、子供に怒るタイミングなんかも父そっくりだなと思うことがある。

 面と向かって教えることはあまりない人だったが、子は親の姿を見て勝手に学んでいく。いや、学んでいくというより、刷り込まれていく。時期が来たらこうなるのだと。親父から、僕は歳の取り方を学んでいたんだと思う。