In my 高野豆腐 head

頭スカスカ人間による雑文置き場

トカゲ人間、西へhttps://hatenablog.com/

東の方から、ふと爬虫類の臭がした。夕方の街にはカレーの匂い、カレーが出来上がるのを待つ人間の匂い、そして人間を待つ狼の匂いが絶え間なく流れている。商店街のコロッケを10個買った後、通りすがりの三河屋の親父に呼び止められた。曰く、「トカゲ人間が東の方からくるんだってさ」といった。親父の口ひげには、シェービングの泡が古墳の形をしてべったりとくっついていた。

 

夏の盛りに、妻と子供を連れて白川郷に行った日のことだった。一匹のトカゲが、ふとテントの下から現れて、人間になりたいとしきりに言う。埒があかないので妻に相手をさせ、適当に子供としりとりをしていたのだが、トカゲの野郎、しりとりにしれっと混ざってきやがる。「トカゲ人間は」とトカゲは言う、「東の方からやってくる。いつか引き連れた、イナゴの大群を身にまとって」。「やけに叙情的な事抜かしやがるじゃねえか」と僕はいい、江戸っ子気取りを精一杯しながら鼻をすすった。「でも東なんですがね、東の果は西の果とくる」「そりゃおめえそのまんまだ。そのまんま東だ」「ですがね旦那、6月16日には絶対ムリなんです。私は絶対に無理なんです」そう言うとそばに置いてあったストロング系の液体糊を一気に飲み干し、トカゲはごろりと寝てしまった。